コラム
2023.08.07 コラム 【くらしの中の経済学】自動車交通と環境
みなさんこんにちは。「くらしの中の経済学」、今回は自動車交通と環境について考えてみたいと思います。
自動車は便利な乗り物ですが、一方で、二酸化炭素(CO2)の排出による地球温暖化を初め様々な問題を引き起こしてしまいます。CO2の排出の他にどのような問題があるのでしょうか?対策を考えるためにも、まずは現状を把握してみましょう。
今回の内容について動画でも解説しております。併せてご覧ください。↓
自動車交通の負の側面
自動車交通による負の側面として第一に挙げられるのは、ガソリンや軽油の燃焼に伴って二酸化炭素が発生し、それが地球温暖化の原因となってしまうことです。
図1は、2021年における日本のCO2排出量の部門別シェアを表しています。自動車交通は運輸部門の大半を占めますが、そのシェアは約17.4%と、産業部門、業務その他部門につぐ大きなシェアを占めています。したがって、運輸部門からのCO2排出量の削減は重要な課題といえます。
図1 日本のCO2排出量の部門別シェア(2021年)
自動車交通による負の側面として、第二に、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOX)や浮遊粒子状物質(SPM、Suspended Particulate Matter)が大気汚染の原因となったり、呼吸器系疾患の原因となったりすることが挙げられます。
第三に、場所や時間帯によっては道路の混雑による時間や燃料のロスが発生します。
第四に、交通事故による人的、物的な損失が挙げられます。
第五に、場所にもよりますが、騒音の問題が発生することもあります。
ここで留意しておきたいことは、これらの負の側面は全て自動車の走行段階で発生している、ということです。前回記事において、取得・保有・走行の段階ごとに課税されることをみましたが、取得・保有そのものからは環境問題等は発生しないと考えられます(生産・流通段階における問題については、別途考慮が必要です)。これは次回記事において詳細に触れます。
もう一点留意しておきたいのは、自動車のゼロエミッション化が達成できたとしても、第三から第五の問題点はなくならない、ということです(騒音は音量ではなくて音質の問題になると考えられます)。
環境に優しい自動車の普及への対応
世界各国で、2035年前後までにガソリンエンジン、ディーゼルエンジンの新車販売の禁止の方針が打ち出されています。
欧州では、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車を含めて新車販売が禁止される予定です。ただし、合成燃料を使う場合には販売が容認される方向で検討が進んでいます。合成燃料は、CO2と水素(H2)を合成して製造されます。再生可能エネルギー由来の水素を用いた場合には、「e-fuel」と呼ばれることもあります。
アメリカのカリフォルニア州やニューヨーク州では、一部のプラグインハイブリッド車を除き、ハイブリッド車も禁止される予定です。
日本は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車は禁止除外の予定です。
環境に優しい自動車の税を優遇することで、その普及を後押しする仕組みもあります。表1は、2023年現在における自家用乗用車の税制優遇措置を示しています。電気自動車など、「次世代自動車」については、自動車税環境性能割、自動車重量税はかからず、自動車税種別割も75%の減免となっています。一方で、ガソリン車は燃費基準を大幅に超えた自動車のみ減税対象となっています。
表1 2023年現在のグリーン税制
出所:国土交通省資料から著者作成
しかしながら、表2に示すように、環境に優しい自動車の普及は長い道のりのようです。表2は、「次世代自動車」とよばれる環境に優しい自動車の普及台数を表しています。
2021年において、ハイブリッド車の保有台数が1000万台を超えましたが、シェアでは約17%にとどまっています。電気自動車もこれから急激に普及していくことが予想されますが、現段階でのシェアはたったの0.2%です。近年の電力不足や電気料金の高騰を加味しますと、電力の確保も含めたインフラの整備をどう進めていくか、課題は山積しています。
表2 環境に優しい自動車の普及状況
出所:一般社団法人 次世代自動車振興センター、一般財団法人 自動車検査登録情報協会
自動車交通の負の側面を経済学的にみる
最後に、先に挙げた自動車交通の負の側面を経済学的にみてみます。これらは「外部不経済」の典型例と考えられます。
外部不経済にともなう費用を「外部費用」といいますが、ここでは、車両や燃料の利用に伴って発生するコストのうち、消費者(ドライバー)や生産者(自動車メーカー、ディーラー、ガソリンスタンドなど)が負担していない費用のことを指します。例えば、燃料を消費することによって地球温暖化が進んでしまい、様々な被害が発生したとして、そのことに伴う費用は、燃料の市場取引の際の代金には含まれていません。
ではこの外部費用はいったいいくらくらいになるのでしょうか。表3は、世界中で推計されている研究例をサーベイし、日本の現状に即しつつ推定した研究例です。推定値に幅があるので、「中位」ケースの値を引用しています。前回の例と同じく、年間10,000㎞走行し、実燃費が15㎞/㍑だとすると、年間約11万円の外部費用ということになります。税負担額も高いと感じましたが、外部費用も同程度発生していますね。
内訳をみてみますと、燃料の消費にともなってCO2が発生し、地球温暖化が進んでしまうことの費用(損害額を推計したり、防止策の費用を推計したりします)がガソリン1リットルあたりで約18.9円(炭素トンあたり3万円)に上ります。大気汚染の費用(健康被害額等)は1リットルのガソリン消費あたりで約9.9円と推定されます。混雑は時間帯や場所によって大きく異なりますが、自動車の走行1キロメートルあたりで平均して約7.0円と推定されています。時間のロス等を考慮にいれています。事故については自動車の走行1キロメートルあたりで平均して約2.5円と推定されています。騒音については、騒音がひどい場所の地価が下落する形で現れると考えられ、燃料消費あたりあるいは自動車の走行距離あたりで表現する外部費用とは別途考える必要があるので、ここでは捨象します。
表3 自動車の外部費用の推定例(ガソリン車、普通車)
様々な負の側面をあえて貨幣価値に直すことで、その深刻さの大小比較や対策の費用対効果を考えることができるようになります。次回は、ここでみた環境問題も踏まえて、今後の自動車の税のありかたについて考えてみたいと思います。
参考文献
金本良嗣・蓮池勝人・藤原徹(2006).『政策評価ミクロモデル』東洋経済新報社.
執筆者:藤原徹