コラム

2022.12.05 コラム どうなる?どうする?日本の空き家その2

今回の内容について動画でも解説しております。併せてご覧ください。↓

 

どうなる?どうする?日本の空き家その2

 

※この記事は前回の記事からの続きです。まだお読みになっていない方は以下よりご覧ください。↓

どうなる?どうする?日本の空き家その1

なぜ空き家?

 

空き家の原因としては何が考えられるでしょうか。マクロ的な話では、少子高齢化、人口の減少と都市への集中等が真っ先に思いつくかと思います。

 

国土交通省は、住宅土地統計調査に基づいて、「空き家所有者実態調査」を行っています。最新版は2019年のものです。調査結果から個別の空き家の発生原因をみてみましょう。

 

 

 

円グラフからわかるように、最も大きな原因は別の住宅への転居(42%)です。やはり気になるのが、「死亡(40%)」「老人ホーム等の施設に入居(6%)」を原因とする空き家です。人口構成を考えると、この部分についてはこれから特に増加していくことが考えられるので、適切な対応が求められます。

 

 

空き家と税1 固定資産税・都市計画税

 

「空き家の発生を助長する税がある」、と聞いたらみなさんはどう思われますか?「そんなものは即刻廃止!」と思われる方も少なくないと思います。一方、「我々のマイホーム用の土地は、税金を安くしてほしい」と思われる方も少なくないと思います。実はこれ、同じ税の特例制度なんです。

 

住宅や土地については、「固定資産税」が課税されます。都市計画区域であれば、「都市計画税」もかかってきます。したがって、住宅用地にも固定資産税(・都市計画税)がかかりますが、以下のような特例が設けられています。なお、住宅用地とは、税務上、1/1時点において住宅が建っている土地のことをいいます。

 

 

固定資産税・都市計画税の住宅用地に関する特例措置

定義 固定資産税 都市計画税
小規模住宅用地 住宅用地で、住宅1戸につき200m2までの部分 課税標準となる価格を×1/6に 課税標準となる価格を×1/3に
一般住宅用地 小規模住宅用地以外の住宅用地 課税標準となる価格を×1/3に 課税標準となる価格を×2/3に

 

住宅用地のうち、住宅1戸について200m2までの部分については、「小規模住宅用地」とされ、固定資産税の課税標準額が1/6になるという特例があります。都市計画税については1/3の評価となります。

 

200m2を超える部分については、固定資産税の課税標準額が1/3に、都市計画税の課税標準額が2/3になります。

 

これらの特例によって、住宅用の土地は固定資産税、都市計画税の支払額が抑えらえることになります。衣・食・住はわれわれの生活に不可欠ですから、うれしい制度ですね。

 

一方、空き家を所有している方の立場に立ってみましょう。老朽化して、使い道もないし、近隣に迷惑をかけるし、といったことで、空き家を取り壊さなければならなくなったとしましょう。取り壊しの費用も小さくないですが、もう一つ問題があって、住宅を取り壊してしまうと、上に記した定義から、住宅用地ではなくなってしまいます!

 

住宅用地ではないので、住宅用地の特例がなくなり、固定資産税、都市計画税の額が跳ね上がってしまいます。皮肉なことに、我々の味方であるはずの特例制度が、空き家の取り壊しを躊躇させる効果を持ってしまっています。

 

この対策として、「空き家等対策の推進に関する特別措置法」が2015年に施行され、「勧告」がなされた「特定空き家等」の敷地については、特例の対象から除外されることになりました。また、新潟県見附市、富山県立山町など、自治体によっては、空き家等の除却跡地に対して、固定資産税を減免する制度を設けています[1]

 

 

空き家と税2 相続税

 

税制度が空き家の増加をもたらしてしまう例の2つ目が、相続税です。現金や預金、株式といった金融資産と比べて、土地や建物の「時価」の評価は低くなります。したがって、子孫に相続させたい財産がある場合には、土地や建物を買い、アパート経営やワンルームマンション投資をすることが「節税」対策となります。下の表のように、相続財産が大きくなればなるほど税率も上がりますから、相続財産の評価額を下げることは、二重に効いてくるわけです。

 

住宅・土地統計調査」から人口減少下にもかかわらず、住宅のストックが増加し続けていることが分かりましたが、その大きな原因がここにあると考えられます。

 

相続税の速算表

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% なし
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

出典:国税庁Webページ

 

 

空家等対策の推進に関する特別措置法

 

管理が不十分な空き家が社会問題化してきたことから、「空家等対策の推進に関する特別措置法」が2015(平成27)年に施行されました。

 

この法律では、空家等を「建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く」と定義しています(第2条1項)。

 

本来であれば、空家であっても所有者の許可なしに立ち入ることは(不法侵入になるので)できないのですが、この法律によって、行政が調査のために必要な範囲内で立ち入ることができるようになりました。また、固定資産税の台帳などを所有者の調査のために利用することもできるようになりました。

 

この法律では、「特定空家等」という考え方が導入されました。特定空家等は、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等」(第2条2項)のことです。

 

特定空家等に認定されると、行政がその所有者に対して除却、修繕、立木竹の伐採等の措置の助言又は指導をすることができるようになりました。それでも状況が改善されないと、所有者は行政から勧告を受けることがあります。勧告を受けた場合には、以前にご紹介した固定資産税の住宅用地に関する特例措置の対象外になってしまいます。さらに必要な措置を取らなかった場合は、行政から命令を受けることになります。命令に違反すると、50万円以下の過料が課されます。それでも改善が見られない場合には、所有者の費用負担による行政代執行となります。

 

国土交通省の資料によりますと、2015年度からの5年間で、固定資産税の特例措置の対象外となる勧告を受けたケースは1,351件、代執行(略式代執行を含む)が260件となっています。空き家の適切な管理は待ったなしの状況になっています。

 

 

[1] https://www.mlit.go.jp/common/001218439.pdf

 

 

執筆者:藤原徹

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