コラム

2023.02.15 コラム 土地は自由に使えない!日本の土地利用規制 その2

今回の内容について動画でも解説しております。併せてご覧ください。↓

 

土地は自由に使えない!日本の土地利用規制 その2

 

みなさんこんにちは。前回に引き続き、日本の土地利用規制についてみてみたいと思います。

前回は土地をそもそも開発してよいかどうかについてのルール、開発規制と、使い道についてのルールである用途規制について概要をみました。今回はその土地に建てられる建物の形を左右する、形態規制についてみてみましょう。

形態規制

 

形態規制は、容積率制限、建蔽(けんぺい)率制限、斜線制限が代表的なものです。

容積率は、建物の延床面積を敷地面積で割って計算します。したがって、敷地面積の何%までの延べ床面積を許容するか、が容積率制限になります。

容積率(%)=(延床面積)÷(敷地面積)×100

建蔽率は、建築面積(いわゆる建て坪)を敷地面積で割って計算します。したがって、敷地面積のうちのどの程度が建物で蔽われていてよいか、を制限することになります。

建蔽率(%)=建築面積(建て坪)÷(敷地面積)×100

斜線制限は、隣地との境界線や前面道路などによって建物の高さを制限するものです。

では、それぞれの規制の目的は何でしょうか。

容積率制限は、道路や上下水道をはじめとしたいわゆる社会インフラへの負荷を制限することを意図しています。あまりに街が密集してしまうと、道路が常に混雑していたり、上下水道の容量が足りなかったり、といったことになりかねないので、容積率をコントロールすることでそれを防ごう、というわけです。

建蔽率制限は、近隣の日照・採光・通風・プライバシーなどへの悪影響を防止することや、火災の際の延焼防止などを狙いとしています。高価な土地だから最大限有効活用したい、といって建蔽率100%を容認してしまうと、隣の土地の建物とくっついてしまいますよね…

斜線制限は、近隣の日照・採光・通風などへの悪影響の防止を意図しています。街を歩いていると、建物の上の階の方が斜めにカットされているのを見かけることがあるかと思いますが、デザイン上の工夫でなければ、斜線制限の影響を受けていると考えられます。

形態規制は、下表のとおり、前回みた用途地域と連動しています。

用途地域と形態規制


出典:国土交通省都市計画局Webサイト

例えば低層住居専用地域の容積率として大きな値を認めてしまうと、「低層」でなくなってしまいますので、容積率は低く抑えられています。商業地域においては、1300%といった大きな値が認められる地域もあります。

容積率制限については、社会インフラへの負荷を調整するという趣旨でしたから、下表のように前面道路幅員による容積率制限も設けられています。例えば住居系用途地域で前面道路幅員が4mであれば、容積率は160%まで、ということになります。上表の用途地域による制限とあわせて二つの基準のうちのより厳しい方が適用されます。

前面道路幅員による容積率制限

出典:国土交通省都市計画局Webサイト

経済学から見た土地利用規制

 

では、これら土地利用規制を経済学の視点でみてみましょう。

工場から発生する騒音、大気汚染、商業地域における混雑や治安の問題が住環境に悪影響を与えかねない、というのが用途の混在を避ける用途規制の根拠と考えられます。これは、経済学では外部不経済の問題として捉えることができます。つまり、特定の企業や個人の経済活動が、他の企業や個人に影響を及ぼしていて、なおかつその影響の部分は市場取引の外にはみ出てしまっている状況です。工場で部品を削るときに騒音が発生したとしても、部品の取引の際に、騒音に関する補償は通常考慮されません。

容積率制限も社会インフラの混雑を避けることが目的となっていますが、これも外部不経済の典型的な問題です。家を買う、オフィスを借りて経済活動を行う、といった中に、インフラが混雑して社会の効率性が低下することに関する支払いは入っていません。

外部不経済への対処としては、規制のほかに課税や補助金、当事者間の交渉といった方法もあり得るので、規制が最善の方法かどうかは熟慮される必要があります。

また、規制の導入によって、外部不経済を抑制できることと引き換えに、土地利用の効率性が低下していることも考慮される必要があります。このどちらが大きいのか、個別事例に応じて、データを活用して定量的に評価した上で規制が導入されると理想的ですね。この点の重要性を示唆する研究論文をご紹介したいと思います。八田先生と唐渡先生による以下の論文です。

八田達夫、唐渡広志(2007)、「都心ビル容積率緩和の便益と交通量増大効果の測定」、『運輸政策研究』、9巻4号、pp.2-16

この論文では、東京都千代田区における容積率制限の緩和の効果をシミュレーション分析しています。容積率制限を緩和することによってオフィスの生産性が高まり、金銭価値に換算して約6,492億円/年の便益が発生すると推計されています。一方で、容積率制限を緩和することで道路交通量が増大しますが、そのことの損失は約692億円/年と推計されています。桁が一つ少ないですね。

容積率制限が道路交通混雑を抑制することは確かなのですが、そのことによる損失にも目を向ける必要があります。

2回にわたって日本の土地利用規制についてみてきました。自分の土地の有効な利用方法とともに、人口が減少していく時代のまちづくりのありかたも考えていかなければなりませんね。

 

 

執筆者:藤原徹

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